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高齢者の健康を支える暖かな暮らし

「高齢者の健康を支える暖かな暮らし」

血圧上昇を抑制して健康に良い影響を

高血圧は死亡に寄与する要因の一つで、その影響度は喫煙に次いで二番目、特に心血管病に対するリスクは第一位です。血圧には、食生活や睡眠、運動など、日常生活での生活習慣が密接に関わっていることは、既に皆さんもご存じだと思います。
では、一方で、普段なにげなく住んでいる“住宅”について、健康への影響を考えたことがあるでしょうか。実は、暖かい居住空間で過ごすことは健康上のメリットがあることが分かってきました。
今回、寒い住宅と暖かい住宅での健康状態を比較するために、高齢者が居住する寒い住宅を断熱リフォームで暖かい住宅に改善し、その前後の健康状態を調査しました。同じ住宅・居住者で温熱環境のみを向上させることで、家を暖かく保つことの効果を確認しています。
温熱環境を向上させた前後の血圧を比較した結果、居室を暖かくした後の調査では52名の居住者の最高血圧・最低血圧の平均値が有意に低下し、暖かい住宅で暮らすことで血圧の上昇を抑制できるかもしれないことが分かりました。
また、住宅の温熱環境の改善度に注目したところ、改善度の高い住宅に暮らす方の血圧は、温熱環境の改善後に有意に低下していました。このことから、居室の温熱環境が良いほど、血圧の上昇を抑制する効果が期待できることも分かってきました。

住宅の温熱環境の改善後に血圧値が有意に低下

暖かい住宅にはモーニングサージを抑える効果もあるのですか?

血圧は1日を通して変動しています。最も低いのが睡眠中で、血圧は10~20%ほど下がりますが、明け方にまた血圧が上昇し、活動に向けて準備します。この起床後にみられる血圧上昇をモーニングサージと呼びます。脳血管疾患や心血管疾患の多くが早朝に起きていることとも関連づけられますが、モーニングサージの上昇幅が大きすぎる場合は健康上のリスクと考えられますし、モーニングサージの上昇幅は加齢とともに大きくなる傾向があります。
しかし、今回の調査にて温熱環境の改善前後でモーニングサージの変化を調べたところ、改善前の寒い住宅でモーニングサージが大きかったグループで特に上昇幅が抑制されました。

高齢者の健康維持に関して、他に良い影響はありましたか?

今回は血圧の測定の他に、国際的に広く使われている指標(WHO-5精神的健康状態)を用い、生活の質(QOL:quality of life)と関連の高い精神的健康度の変化についても調査を行っています。温熱環境の改善前後で比較すると、精神的健康度の数値は上昇し、改善がみられました。
今回の調査では精神的健康度が上がったことから、暖かい住宅で暮らすことがQOLの向上に繋がると思われます。またご協力いただいた方々に感想をうかがうと、居室全体が暖かくなったことで、冬の肌寒さといった不満が解消されるとともに、生活を楽しむゆとりが生まれたようにみえました。

高齢期を迎えたときのことを想定した家づくりのすすめ

今回の実証実験では居間だけの改修でしたが、その限定された条件でも血圧上昇を抑制する効果を確認できました。もし住宅全体を暖かくすることができれば、その効果はより増すと思います。
これから住宅を持つ方は、外観や間取りに悩むように住宅内の温熱環境についても考えることをおすすめします。大事なことは、寒くなったから暖房器具を出したり厚着をするのではなく、冬を迎えても寒くならない住空間を用意するという着想にあると思います。
例えば全館空調システムなどで家全体を一定の温度に管理できることは、高齢者にとって血圧上昇の抑制やQOLの向上が期待できる理想的な環境と言えるでしょう。

起床後の血圧上昇の抑制効果も

精神的健康度が上昇