トップページ > 空気と暮らしの研究所 > 外山知徳先生が語る 子どもの成長に好影響を与える間取り
住まい方が子どもの成長発達を阻害したり、家族関係が不仲になったり、破綻、離婚に至ったりする可能性もあります。たとえば、住まい方を変えたことで、登校拒否の子どもが学校に行けるようになった例があります。ある登校拒否の女子中学生の話ですが、部屋が足りないということで両親の部屋に寝かせてもらい、勉強机をお兄さんの部屋に置かせてもらっていた。それが自分の部屋を与えてあげたところ、自分の居場所ができ、落ち着いて学校へ行けるようになった。この子にとって、自分の部屋がないことがコンプレックスになっていたのです。
一人ひとりが安心していられるスペースがあり、一人の人間としての存在が認められているということです。居場所は「テリトリー」とも言います。神戸の連続児童殺傷事件を起こした当時14歳の少年は、自分のことを「透明な存在」と表現しましたが、これは自分が一個の存在として認められていないことを意味していたのではないでしょうか。「認められる」というのは、大人から叱られることだっていいんです。自分のスペースが確保されているというのは、一人の人間として認められているその表れです。これは、必ずしも個室があることを意味しません。居間のなかでも居場所がある。たとえば食卓で自分が座る位置が決まっていなければ、その子は根なし草的な存在となってしまいます。大人でもそうですが、人間は何らかの規格がないとダメなのです。自分なりの価値観、しがみついているものがないと、自己を形成できません。根なし草的になると、頼るものがなく、自分の軸がぶれてしまいます。
日本はむし暑いので、かつての日本家屋はふすまと障子でした。家族の会話がみんな聞こえてしまう。だから必然的にお互いを認識しあわないと生活できない。風土が家屋構造、ひいては日本人の文化的人間性に影響しているのです。しかし、住宅技術や西洋文化の取り入れなどにより現代の住宅の間取りの設計が違ってきたという面もあります。しかしながら、文化的人間性がそれにあわせて変化しているとは必ずしもいえず、そこにひずみが生じる場合があるのです。
現在の人間関係はそのようなあり様に否応なく変わってきています。そういう人間関係のあり方を快適に受け止められる人はともかく、そうでない人にとっては苦痛です。そこをフォローする仕組みがどこにも用意されていないので、問題が起こる場合が少なくないのです。引きこもりや「双極性Ⅱ型」と言われる新型うつの増加も、そういった傾向と無関係ではないように思います。精神分析家の岸田秀さんの著書『歴史を精神分析する』に倣って言えば、少子化、IT化、ネット社会化によって人間関係のあり方が「統合失調症的になってきている」「近くにいるのに遠い/遠くにいるのに近い」関係になっていると分析できると思います。
まずリビング+ダイニング(L+D)なのか、リビング・ダイニング(LD)なのかの見きわめです。家族がくつろぐのは食卓なのか、それとも別室のリビングなのか。くつろぐことを前提とすれば、ダイニングの椅子や家具の選び方が違ってくるはずです。家族団らんのあり方、来訪者の受け入れ方など、自分たちの生活様式に合った空間構成と家具の選択・配置が大事です。次に家族のだれがどこに位置を占めるのか、テリトリーとして現実感のある設計をすることです。さらに、動線にも注意します。人の居場所を通り道にしない。また面積的に滞留でき、落ち着ける空間にすること。間仕切りの少ないオープンスタイルのリビングや吹き抜けのあるリビングは、隔てのない家族関係を築きやすい利点があるでしょう。
一般的に個室が必要とされるのは小学5年からです。ただし個人差が大きいので、個室が必要な発達段階、個室を個室として使いこなせる発達段階に達しているかの見きわめが必要になります。早く与えすぎたと思ったら、無理に押しつけないことです。鍵は必要ありません。登校拒否児はよく自分で鍵を買ってきて取り付けてしまいますが、最初から付けてあったわけではありません。これは入ってきてほしくないという彼らの気持ちの表れなのです。また、個室を与えたら与えたなりの育て方をしなくてはなりません。個室を与えておきながら、子どもに干渉するのはよくありません。親が勝手に全部掃除をしてしまうとか。さらに兄弟姉妹の間では、上の子ほど広くし、下の子ほど親に近くするなどの配慮も必要でしょう。1970年代には子どもに個室を与えるのがよくないと言われていましたが、そうだとすると、個室が増えるにしたがって家庭内暴力がもっと増えていないとおかしい。個室を与える、与えないが問題なのではなくて、やはり「住まい方」が重要なのです。
最近は、家族のコミュニケーションを増やすという意味で、リビング階段など開放的な空間作りが一般化してきました。こういったオープンスペースや共用スペースが家の中にあってもいいでしょう。とくに子どもが小さいうちは、親の目の届く場所にいることが必要ですから、兄弟による共用スペース(キッズ共用スペース)をつくるのもお薦めです。家族の共用スペースとしては、階段スペースのライブラリーや居間のPCスペースといったように、子どもが出てくるような何らかの魅力があるとよいですね。子どもが成長するにつれて個室にいる時間が長くなりますので、最初は広めのオープンなスペースをつくり、子どもの成長に合わせて仕切りが増えていけば理想的でしょう。オープンスペースがその目的を果たすためには、注意も必要です。たとえば、リビング階段がリビングを横断する形だと、家族同士のコミュニケーションがさえぎられ、本末転倒になってしまいます。